月間チャージャーより

日本の漁業の将来についての記事がありました。
読んでみてくださいね。



ある日のこと、Twitterで日本の漁業の危機を叫ぶつぶやきに遭遇した。海に囲まれた島国ニッポン。漁業は日本人の命綱といっても過言じゃない。ところが、最近日本近海でのいろんな魚の漁獲量が激減しているらしい。このままでは日本人は魚が食べられなくなるかも知れない。はたして、何が起きているのだろうか。つぶやきの主でもあった水産学研究者、三重大学准教授の勝川俊雄氏に聞いてみた!

Charger:日本各地で、漁獲高が減っているというニュースを頻繁に目にするようになっています。漁業従事者の高齢化や後継者不足の問題もありますよね?

日本の漁業が衰退していることは、さまざまなデータから明らかです。でも、その原因は正しく把握されていません。日本では、漁業は高齢化や資源の減少で衰退している一次産業だから、税金を投じて保護しなければいけないと信じられている。でも、世界的に漁業はむしろ成長している産業です。主要な漁業国で、1960年と2007年を比較して漁獲量が減少しているのは日本だけというのが現状です。
主要漁業国の漁獲量

Charger:日本の漁獲量は1970年代に急増して1000万トンを超えて(ピーク時の1982年には1282万トン)いました。それが、90年代以降になって激減しています。つまり、無計画な乱獲が原因で漁業が衰退しているということですか?

そうですね。ポイントは漁業資源の管理に対する政策の違いです。ノルウェーやアイスランド、オーストラリアなどは資源管理に成功して漁業は成長している。でも、日本をはじめ、スペインやフランスなどは上手くいっていない。世界の漁業は二極分化が進んでいます。

資源管理がうまくいっている国は、自然環境と調和しながら、継続的に漁業を発展させる「Race to the TOP」の発想で取り組んでいる。でも日本などは、非持続的な「業界」をいかに維持していくかという「Race to the BOTTOM」の発想に陥っているといえます。

日本の漁業政策は、漁業そのものではなく、漁業に関わる既得権者を守るシステムになっている。でも、既得権者を守るのは、漁業を守ることにはなりません。たとえば、トキを守ろうとして、今いるトキを手厚く保護するだけで解決にはならないでしょ。トキが繁殖して、次世代につながっていける環境を整えることが大切です。今の漁業者が好きなだけ魚を獲る権利を手厚く保護した結果、魚が減り、漁業への新規加入ができなくなっているのが日本の現状です。



たとえば、クロマグロの現状は?

Charger:今年の春、大西洋クロマグロの漁獲量を制限するワシントン条約が話題になりましたが、日本近海のクロマグロも減っているようですね?

クロマグロの現状は?その通りです。日本海にクロマグロの産卵場があることは、昔から漁師たちは知っていた。その産卵場の近くで、2004年から境港(鳥取県)で始まった大規模な巻き網漁が、クロマグロの資源量を大きく減らしています。たとえば、産卵場にも近い長崎県の壱岐ではクロマグロの一本釣り漁が行われていますが、巻き網漁が始まってから一本釣りの水揚げは目に見えて激減しています。

最大の問題は、ヨコワと呼ばれるクロマグロの未成熟な個体を乱獲してしまうことです。成長して産卵する前に獲ってしまうのですから、減っていくのは当然です。世界各地の過去の例をみても、産卵場の近くで巻き網による乱獲を行うと、その漁業資源は10年ももたずに壊滅するといわれています。日本海のクロマグロは、今まさに壊滅的な状況にあるのです。

境港の巻き網船団によるクロマグロ漁獲高Charger:小さな魚は、市場での価格も安いですよね?

それも大きなポイントです。未熟なヨコワは市場での価格が安いですが、数年待てば体重が100kgレベルの立派なクロマグロに成長します。自然淘汰で6年後まで生き残る確率が約3割だとしても、キロ単価は10倍になるのです。現在、日本は未熟なヨコワを毎年約5000トン(約200万尾)水揚げしており、およそ27億円の売り上げがあります。6年待って獲れば平均して100kg程度の個体となり、約50万尾(約5万トンでキロ単価5000円として)としてもおよそ2500億円の売上です。つまり、乱獲は漁業の経済規模も桁違いに小さくしてしまっているということです。

漁業の資源管理とは、漁業従事者の稼ぎを減らすことではなく、獲った魚の商品価値を上げることです。日本の漁業が衰退している最大の原因は、漁業資源の潜在能力を100として、10ほども引き出していないことといえます。ただし、こうした資源管理の責任を漁業の現場だけに押しつけるのは無理がある。国の政策として取り組むことが不可欠ですね。

さらに、サバやイワシの現状は?

Charger:ブランド魚として有名な関サバも、近接した漁場での巻き網漁の影響で、不漁が続いていると聞きました。

乱獲によって資源を枯渇させてしまう構造は、クロマグロと同じです。ところが、今の日本の漁業政策では、漁獲量が減ると公的な補助金を出して、漁船を大型化したり、ソナーなどなどの装備を高性能化させています。税金を使って、さらに乱獲を推し進めているのです。

もちろん、現場の漁師さんたちも「小さい魚を獲り過ぎるのが漁獲高減少の原因」ということはわかっています。でも、日々の稼ぎをあげるためには獲るしかない。むしろ、より積極的に乱獲した人が生き残る構図になっていることが問題です。

Charger:同じように漁獲高が減少しているマイワシは、漁業に関係なく資源量が変動するとも言われていますが?

サバやイワシの現状は?たしかに、マイワシについては1990年前後の数年間、卵が生存して成長する率が非常に低い状態が続いたことがわかっています。当然、漁獲高も激減しました。その後、1995年ごろには卵の生存率は回復しました。ところが、減少した漁獲高を増やそうと高性能化した漁船で乱獲を続けたために、資源量が回復できない状態が続いているのです。

漁業管理の先進国であるノルウェーでも、かつては乱獲で漁業資源を壊滅させた苦い経験をもっています。でも、現在では魚種ごとの漁獲枠を漁業者に割り当てて、付加価値の高い成熟した魚だけを獲る「個別漁獲枠制度」が進んでいる。再生可能な資源は維持しながら、いわば「利息」だけを獲るという考え方が浸透しているのです。持続的な漁業の発展を維持するためにも、「個別漁獲枠制度」は不可欠だと考えています。

Charger:「個別漁獲枠制度」ですか?

今の日本の漁業は、海を戦場にした「お金のつかみ取り競争」に陥っています。魚を硬貨にたとえると、成長して価値の高い500円玉と、未熟で安い10円玉があると考えてみてください。日本漁業は、早獲り競争の結果500円玉がほとんど無い状態で、10円玉を奪い合っています。10円玉しかなければ、漁師はそれを獲らざるを得ないのです。
乱獲競争改善のイメージ
一方、ノルウェーなどの資源管理先進国は、十分な親を残した上で控えめな漁獲枠を設定します。そして、その漁獲枠を早い者勝ちで奪い合わずに、予め個人に配分しておくのです。500円玉が十分にある状態で「硬貨は10枚しか獲っちゃダメ」と規制すればどうでしょう。みんな500円玉だけを探して獲るようになる。結果として、漁業は安定して利益を生む産業になるのです。たとえば同じ10枚で金額は100円しかなかった売上高を、5000円にすることが可能になります。これが「個別漁獲枠制度」のメリットです。

僕らに何ができるでしょうか?

Charger:日本海では中国や韓国の漁船も操業します。日本だけが規制するのは、損するように感じるのですが?

たとえばクロマグロの日本海産卵群を乱獲しているのは、明らかに日本のEEZ(排他的経済水域)内での出来事です。また、韓国はすでに個別漁獲枠制度の導入に取り組んでいて、むしろ日本よりも漁業先進国になりつつある。

日本の漁業が壊滅的ってホントなの?今後の世界で、食料は間違いなく成長する産業のひとつです。自動車やITは、市場が飽和すれば買い換え需要だけになります。一方、食べ物は食べたら無くなるので、需要は安定しています。再生可能な利用を推進して、より付加価値の高い魚を市場に提供していくのは、もともと世界一の水産国であった日本の責務ともいえるのではないでしょうか。

また、地方にとって漁業は重要な産業です。ことに、離島にとっては命綱ともいえるでしょう。韓国人観光客の増加などが問題になっている対馬の漁業が壊滅すれば、対馬に日本人は住めなくなってしまいます。乱獲を促進してしまうような税金の無駄遣いをやめて、漁業を持続的な産業にする政策こそが、日本という国を守ることになるのです。

日本の漁業は、今とても「もったいない」現状にある。未来の食料資源を破壊しながら、十分な利益を生み出せない非持続的なシステムを延命するために税金を投入し続けています。

Charger:とはいえ、消費者である私たちにできることが思い浮かびません。

丁寧に説明すれば誰もが危機感を共有してくれるのですが、一般の消費者には本当の現状があまり知らされていません。まずは、専門家とメディアが協力して、漁業に関する情報をもっと流すべきです。世論が高まれば、行政も業界も対応せざるを得なくなります。

1986年から個別漁獲枠制度を導入したニュージーランドに、チャタム島という南太平洋上の離島があります。本島から小さなプロペラ機で4時間ほどかかるこの島へ視察に行ったことがあるのですが、600人ほどの島民は良質な伊勢エビやウニを獲りながら幸せに暮らしています。島の漁業責任者も、当初は個別漁獲枠制度に反対していたそうですが、今では自信たっぷりに「量より質の漁業が大切だ」と話してくれました。

ニュージーランドやノルウェーを訪ねた時、漁業関係者に「最初に資源の管理制度を導入する時はどうだったのか」と質問してきました。多くの人に共通する答えは「パブリックオピニオンが高まったから」というものです。乱獲競争に陥っている漁師さんが自発的に改革をするのはたしかに難しいことですが、社会の声は変革する力をもっているのです。私自身、ブログやツイッターで情報発信を続けています。この記事を読んでいただいたみなさんにも、ひとりひとり、声をあげていっていただきたいですね。

勝川俊雄●かつかわとしお

勝川俊雄●かつかわとしお
1972年東京生まれ。東京大学農学部水産学科卒業後、海洋の資源解析研究で博士号を取得。現在、三重大学生物資源学部准教授。公式サイトやツイッターで情報発信を続けている。

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